ビタミンAの栄養と健康(過剰症欠乏症)
ビタミンAは、動物性食品に含まれるビタミンの1つであり、その性質は油脂類に溶ける事ができる脂溶性ビタミンであります。また、植物にもビタミンAの前駆体(プロビタミンA)であるカロテンを体内に摂取すると体内でビタミンAが生成されるものがあります。ビタミンAの働きは、上皮、器官、臓器の成長・分化に関与することから、妊婦や授乳婦にとっては重要ですが、過剰摂取する事で奇形児のリスクが高くなります。また、一般的なビタミンAの作用としては、「目や粘膜を正常に保つ」、「夜盲症を防ぐ」、「がんのリスクを軽減する」などといわています。
ビタミンA過剰症と栄養
ビタミンA過剰症は、ビタミンAを含む薬剤やサプリメントを大量摂取する事により発症する過剰症があります。しかし、ビタミンAは過剰に摂取すると体内に蓄積される性質があり、ビタミンAを含む薬品、サプリメントを長期間に多めに摂取しても過剰症を発症するリスクがあります.
ビタミンA過剰症と多く含む食品
ビタミンAとして働く成分を多く含む食品は、レバー、うなぎ、バター、マーガリン、チーズ、卵、緑黄色野菜などです。含有量が多い食品は、植物性食品より動物性食品に多くみられます。また、国民健康・栄養調査報告(平成22 年)では、日本人のビタミンA 摂取は、動物性食品(平均値:175μgRE/日)よりも植物性食品(平均値:354μgRE/日)からの割合の方が約4割多いと報告されています。したがって、緑黄色野菜はビタミンAの供給源としてとても重要なのです
ビタミンA過剰症になりやすい食生活
レバー若しくはパテのようなレバー製品を週1 回以上食べている人は、これ以上摂取量を増やさないこと。そしてビタミンA のサプリメントを摂らないこと。閉経後の女性及び65 歳以上の男性といった骨粗しょう症になるリスクの高い人は1 日1.5mg 以上のビタミンA を摂らないこと。具体的には、レバー若しくはレバー製品を週1回以上摂らないこと。妊娠中又は妊娠を希望する女性は、ビタミンA を含むサプリメントを摂らないこと。また、レバー及びレバー製品を摂らないこと。
ビタミンA過剰症とβカロテン
植物性食品に含まれるビタミンA 供給源は主にβ-カロテンになります。このβ-カロテンのプロビタミンA としての過剰障害は知られていません。下で説明している栄養所要量)の上限量の算出にもβ-カロテンは含まれていません。
ビタミンA過剰症の症状
ビタミンAによる過剰症は、普通の食事ではなりずらくビタミンAを含む薬剤やサプリメントを大量かつ長期間摂取した場合に発症します。過剰症の症状には、急性と慢性の症状があります。
βカロテンの過剰摂取と過剰症
ビタミンAの1つであるβカロテンは、消化吸収されるときにβカロテンから、ビタミンAに変化します。βカロテンは、必要な分だけが置き換えられて吸収され、余分な分は身体の外に、排出される仕組みになっています。また、βカロテンの性質上、吸収率やビタミンAへの変換率が低いため、大量に食べた場合でも、過剰摂取になることはありません。ビタミンAの1日の摂取量の上限は、3000μg(マイクログラム)REですが、たとえβカロテンを、この10倍以上摂取しても、身体に異常がでてくることは、ほとんどありません。(手のひらや足の裏が、黄色くなる程度です。)βカロテンは、レチノールに比べ、はるかに安全なビタミンAといえます。
レチノールの過剰摂取と過剰症
レチノールは、鶏レバー、豚レバー、あんこうの肝、うなぎの蒲焼きなどの、動物性食品に多く含まれているビタミンAです。このレチノールは、身体への吸収率が高いのが特徴で、βカロテンのように、変換されることもありません。ちなみに、厚生労働省から公表されている、レチノールの1日あたりの摂取量の上限は、3000μgREになっています。吸収されたレチノールのほとんどは、肝臓に運ばれ貯えられます。このため、レチノールを多く含む動物性食品を、大量に食べるとそれに比例して身体に貯えられ、ビタミンAの過剰症が現れてきます。
ビタミンA過剰症の症状
・主に後頭部の激しい痛み
・手足の痛み
・めまい、吐き気、嘔吐、下痢
・食欲不振、けんたい感、肌荒れ、睡眠障害
・脱毛
また、妊娠した女性が、レチノールを過剰摂取すると、生まれてくる赤ちゃんが奇形になる危険性が多く、注意が必要です。(ただしβカロテンは、この危険性はほとんどありません。)
急性ビタミンA過剰症
急性ビタミンA過剰症は、腹痛、悪心、嘔吐、めまい、過敏症などが出現した後、全身の皮膚落屑がみられます。北極熊の肝臓や魚の肝油を大量摂取した場合などにみられることが知られています。
慢性ビタミンA過剰症
慢性ビタミンA過剰症では、全身の関節や骨の痛み、皮膚乾燥、脱毛、食欲不振、体重減少、肝脾腫、脳圧亢進による頭痛及びうっ血乳頭などを示します。慢性の症状は、25,000I.U.(I.U.は国際単位で、25,000I.U.は7,500μgREに相当)を服用すると慢性症状が出現すると言われています。)
ビタミンA過剰症とサプリメント
ビタミンA過剰症は、野菜などに含まれるプロビタミンAであるカロチノイド系(カロテンなど)は、体内で過剰となると変換が減少するので、特定の健康障害を引き起こすことはなく、一般的に安全と考えられています。β-カロテンの過剰摂取により皮膚が黄色になりますが、これは健康に有害ではありません。みかん等を食べすぎて手足が黄色くなる柑皮症などがそうです。野菜や果物を食べる事でのビタミンA過剰症は心配する必要はありませんが、サプリメントなどからカロチノイド系ビタミンAを摂取する場合には所要量を大幅に超えない事がよいかと思います。ドイツでは、β-カロテンのサプリメントについて科学的に不明な点が多いことや健康保護の観点から、β-カロテンのサプリメントの使用には細心の注意を払うよう勧告するとともに、サプリメントによるβ-カロテン摂取量は、2mg/日を超過しないよう勧告しています。
ビタミンAの疾病予防と過剰症
ビタミンAは様々な研究から喫煙者において肺がんのリスクの軽減につながるものと考えられています。緑黄色野菜の中のどの栄養素が重要な役割を果たしているかについては一致した見解はありませんが、最も注目されたのは前駆物質であるカロテンでした。カロテン摂取量の多い人、あるいは肺がん発症前に採取された血液中のカロテン(主として、β-カロテン)濃度が高い人の肺がん発症リスクは、20~85%ほど低いことが多くのケース・コントロール研究やコホート研究で示されています。日本の国立がんセンターホームページでは、肺がんを予防するためには、まずたばこをやめ、果物や緑黄色野菜をとることが推奨されていますが、禁煙せずに、1日20mg以上のβ-カロテンを錠剤などで補給することは、かえってリスクを高める結果になるので控えることが推奨されています。
ビタミンA過剰症と栄養所要量
ビタミンAの所要量は以下の通りになります。厚生労働省が推奨している量を大幅に超える大量かつ継続的に服用する事で過剰症になるリスクは高くなります
ビタミンAの推奨量 | |
成人男性 | 750μgRE |
成人女性 | 600μgRE |
妊婦 | +70μgRE |
授乳婦 | +420μgRE |
※「日本人の食事摂取基準(2005年版)」による
※成人=18~49歳
ご参考:2003年 国民健康・栄養調査による摂取量(20~59歳平均)
男性:880μgRE 女性:863μgRE
ビタミンAに関する情報
ビタミンAに関する詳しい情報ビタミンAの栄養所要量
ビタミンAの吸収を促進阻害する因子
ビタミンAが多く含まれている食品
ビタミンAの過剰症
ビタミンAの欠乏症