ビタミンB1の栄養と働き
ビタミンB1 |
チアミン |
ビタミンB1 (thiamin:チアミン) は、1910年に鈴木梅太郎によって米糠から発見された水溶性のビタミンです。天然にはチアミン1リン酸 (TMP) 、チアミン2リン酸 (TPPまたはTDP) 、チアミン3リン酸 (TTP) の3種類のリン酸エステルが存在します。これら3種類のビタミンB1のリン酸エステル体は、摂取するとビタミンB1となって吸収され、生体内で再びリン酸化されます。体内では主にチアミン2リン酸の形で存在し、糖質および分岐鎖アミノ酸代謝における酵素 (トランスケトラーゼ、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素) の補酵素として働きます。
ビタミンB1の栄養と消化・吸収
経口摂取したビタミンB1は、小腸から吸収され低濃度の時は能動輸送によって、高濃度の時は受動拡散によって吸収されます。吸収されたビタミンB1は補酵素として利用されます。利用された後は、尿中や糞中に排泄されます。ビタミンB1を分解し生理活性を消失させてしまう酵素であるチアミナーゼ (アノイリナーゼともいいます) は、貝類、わらびやぜんまいなどの山菜、鯉や鮒などの淡水魚に含まれます。しかし、チアミナーゼは加熱することによって活性を失います。
ビタミンB1栄養、欠乏すると脚気を発症
ビタミンB1は、神経・筋肉の機能を正常に保つために必要に重要です。糖の代謝を促進してエネルギーを産生し、神経・筋肉などへエネルギーを供給します。ビタミンB1は、水に溶ける水溶性の性質を持ち、かつてわが国の国民病のひとつといわれた脚気という病気は、ビタミンB1欠乏によっておこることが知られています。
ビタミンB1の化学的特性
水溶性で、酸性では安定ですが、アルカリ性、熱には不安定です 。
ビタミンB1の栄養所要量
ビタミンB1は、摂取した糖質からエネルギーを作るのに必要な大切なビタミンです。このビタミンB1が不足するとエネルギー生成がうまくできず、食欲がなくなったり、疲れやすい、だるいなど夏バテのような症状になり、さらに不足すると脚気になってしまいます。ビタミンB1は、水溶性ビタミンに分類され過剰症の少ないビタミンとして知られています。しっかりビタミンB1を補ってスタミナ切れを起こさないようにしましょう。
ビタミンB1過剰症、欠乏症を予防する為の栄養所要量
ビタミンB1推奨量 | |
成人男性 | 1.4mg |
成人女性 | 1.1mg |
栄養機能性食品として | (下限値) 0.3mg |
(上限値) 25.0mg |
(参照) 詳しいビタミンB1の栄養所要量
※エネルギー摂取量が多いほど要求量が増大するので、糖質含量の高い食品の摂取、多量のアルコール摂取、輸液による栄養補給を受けている場合などにはビタミンB1の補給が特に必要となります。
我が国におけるビタミンB1栄養摂取状況
平成21年の国民健康・栄養調査では、通常の食品から男性で平均0.90 mg/日、女性で平均0.78 mg/日摂取しています。また、強化食品・補助食品から男性で平均0.66 mg/日、女性で平均0.77 mg/日摂取しています。
ビタミンB1過剰症と欠乏症には脚気が有名
最近インスタント食品の利用増加にともなって、ビタミンB1不足による脚気が報告されています。また、多忙な人や激しいスポーツをする人ほどエネルギーを活発につくって消費していることから、体内でビタミンB1が不足しやすくなります。豚肉をはじめ、ビタミンB1の多い食品を積極的にとるようこころがけましょう。 一方、通常の食生活においてとり過ぎによる過剰症の心配はほとんどありません。ただし、サプリメントなどからの大量摂取によって頭痛、いらだちなどや、かゆみなどの皮ふ症状が報告されています。その利用目的、方法、摂取量に十分に注意して適切なご利用をこころがけてください。
ビタミンB1には、過剰症状と欠乏症(脚気)
項 目 | ビタミンB1における具体的な症状 |
過剰症 | 腸の不調、まれに皮膚炎などの過剰反応がみられる。特に上限は定められていません。 |
欠乏症 | 脚気(多発性神経炎)、ウエルニッケ脳症、抹消神経障害、浮腫、心肥大、動悸、頻脈、筋肉の衰弱や痙攣、亜急性壊死性能脊髄症、分枝鎖アミノ酸症、高アラニン血症、疲労、頭痛、糖尿病性神経症、食欲不振、運動能力低下。ウエルニッケ脳症はアルコール多飲者に多発する。亜急性壊死性能脊髄症、分枝鎖アミノ酸症、高アラニン血症はチアミンピロリン酸が補酵素として働く酵素の欠損により起こる代謝異常の遺伝性疾患。ビタミンB1の投与で改善が見られる。 |
ビタミンB1が多く含まれている食品
ビタミンB1の多い食品は、穀類のはい芽(米ならヌカの部分)、豚肉、レバー、豆類などです。中でもとくに豚肉にはビタミンB1が豊富です。日本人の主食はごはんですが、ほとんどの人が食べているのは精白米で、ビタミンB1が豊富なヌカを大部分とり除いています。ただでさえ減ってしまっているビタミンB1は、洗い過ぎると流れ出てしまうので、ほどよい洗米が大切です。また精白されていない米(はい芽米、玄米)を使うことや、麦ごはんにすることもひとつの方法です。
有量(可食部100g中) | 常用量(目安量) | ||
---|---|---|---|
豚ヒレ 赤肉(生) | 0.98 | 80g(手のひら大) | 0.78 |
さつまいも(生) | 0.11 | 200g(1本) | 0.22 |
スパゲッティ(ゆで) | 0.05 | 210g(ゆで1食) | 0.11 |
うなぎ(蒲焼) | 0.75 | 80g(1/2尾) | 0.60 |
べにざけ(生) | 0.26 | 70g(1切れ) | 0.18 |
豚ロース 赤肉(生) | 0.80 | 80g(手のひら大) | 0.64 |
生ハム | 0.92 | 20g(1枚) | 0.18 |
(参照) ビタミンB1の吸収を促進阻害する因子
ビタミンB1を含む食品調理・加工をする際の注意点
日本人の主食である米はヌカの部分にビタミンB1を多く含んでいますが、精米することによって大部分が取り除かれてしまいます。さらに、米を洗っている間にも消失し、炊飯することによって、そのほとんどを失います。そのため、精米に「胚芽米」や「玄米」を混ぜる、麦ごはんにするなど工夫をして毎日の食事から摂取するようにしましょう。ビタミンB1、B2、B6をバランスよく摂取するようにしましょう。
ビタミンB1の歴史
最初に発見したのは、日本人の鈴木梅太郎博士です。1910年に脚気の研究の際に発見した成分で「オリザニン」と命名されました。これは現在のビタミンB1にあたります。1897年にオランダ人のエイクマンが脚気に米ぬかの成分が関係していることは示唆していましたが、米ぬかからの成分抽出に成功したのは、鈴木梅太郎博士が初めてです。その後1911年にはポーランドのフンクも同じく米ぬかからの分離に成功し、翌年1912年に、生命の「vital」、アミン「amine」ということで「vitamine」と命名しました。
ビタミンB1に関する情報
ビタミンB1に関する詳しい情報ビタミンB1の栄養所要量
ビタミンB1の吸収を促進阻害する因子
ビタミンB1が多く含まれている食品
ビタミンB1過剰症
ビタミンB1欠乏症
ビタミンB群について詳しい情報はこちらを参照