ビタミンKは止血作用に関与
ビタミンK |
フィロキノン メナキロン |
ビタミンKは天然に存在するものには2種類あり、緑黄色野菜・海藻類・緑茶・植物油などに含まれるフィロキノン(K1) と、もうひとつは腸内細菌によっても合成されるメナキノン(K2)です。ビタミンK2には11種類の同族体 (類似の化合物) がありますが、この中で食品に多く含まれるのは、動物性食品に広く分布するメナキノン-4と、納豆菌によって産生されるメナキノン-7です。通常、フィロキノン・メナキノン-4・メナキノン-7を総称してビタミンKと呼びます。メナジオン(K3) は天然には存在せず、大量摂取すると毒性が認められる場合があるため、使用は認められていません。ビタミンKは、各種タンパク質のグルタミン酸をγ-カルボキシグルタミン酸に変換する時の補酵素として働きます。この働きによって、血液凝固因子はカルシウムと結合できるようになり、正常な血液凝固が起こります。また、ビタミンKは骨の形成に必要とされ、日本ではメナキノン-4 (メナテトレノン) が骨粗鬆症治療薬として用いられています。
ビタミンKの栄養と吸収・消化
食事から摂取したビタミンKは、胆汁酸や膵液と混合され、小腸で吸収されたのち、カイロミクロンに取り込まれてリンパ管を通り、肝臓に運ばれます。その後、肝臓でリポタンパク質に取り込まれて血中を通り、各末梢組織へ運搬されます。生体内での代謝は以下の通りです。
ビタミンKの働き血液凝固(止血)と骨に関与
ビタミンKは、出血した時に血液を固めて止血する因子を活性化します。また、骨の健康維持にも不可欠で、骨にあるたんぱく質を活性化し、骨の形成をうながすことも知られています。このため、骨粗しょう症の治療薬としても使われています。さらに、血管(動脈)の健康にも役立っています。
血液凝固とビタミンK
血液凝固に関わる多くの因子がビタミンK依存性タンパク質であり正常な血液凝固に必須である。成人では、通常の食事で血液凝固に関してビタミンK不足になることはほとんどないが、新生児、乳児、肝疾患等により、出血症が知られる。新生児用の粉ミルクにはビタミンKを添加することがある。また、産科では出生時、出生1週間、一か月健診などの頃合いでビタミンKシロップを投与する。
骨代謝とビタミンK
ビタミンKのうちビタミンK2(MK-4)が骨粗鬆症の治療薬として利用されている。骨形成マーカーの1つであるオステオカルシンは、ビタミンKによって活性化され骨代謝を調節する。このオステオカルシンを十分に活性化するためには、血液凝固を維持するために必要なビタミンK量よりも多くのビタミンKを摂取しなければならない。納豆を多く食べる習慣のある地方では、納豆をあまり食べない地方よりも骨折が少ないことが知られており、納豆に含まれるK2(MK-7)が骨折を予防する因子と考えられる。ビタミンKのうち、MK-4やMK-7などのK2はオステオカルシンを活性化するだけでなく、骨組織に対して直接的に骨形成を促進し、骨の破壊を抑える効果がある。また、ビタミンK2は、骨のコラーゲン生産を促進し、骨質を改善する点に特徴がある。
動脈硬化とビタミンK
動脈にカルシウムが沈着する動脈石灰化が動脈硬化症の最も重要な症状の1つとして認識されている。ビタミンK依存性タンパク質の1つであるマトリックスGlaタンパク質(MGP)を欠損したノックアウトマウスは、全身の動脈にカルシウムが沈着し死亡する。ビタミンK阻害剤を投与した患者では、MGP欠損マウスと同様の動脈石灰化がみられる。心臓病とビタミンK摂取量を調べた疫学研究で、ビタミンK2の摂取量が高い群では低い群と比べて動脈石灰化が抑制され、心臓病による死亡率が半分程度であったとが報告された。また、臨床試験においてビタミンKを3年間投与すると血管の弾力性が維持されることもが知られる。
ビタミンKの化学的特性
K1およびK2はエーテル、石油エーテル、ベンゼン、ヘキサン、アセトンには溶けますが、エタノールやメタノールには溶けにくく、水には溶けません。また、空気と熱に対して安定ですが、アルカリや紫外線に対しては不安定です。
ビタミンKの栄養所要量
血液凝固因子(血液凝固に関与する因子で、15種ある)を活性化して出血を止める作用があります。また、骨に存在するたんぱく質オステオカルシンを活性化し、ビタミンDとともに骨の形成を促進します。
ビタミンKの所要量は以下の通りです
ビタミンK推奨量 | |
成人男性 | 18~49歳 75μg |
成人女性 | 18~29歳 60μg 30~49歳 65μg |
※ビタミンK上限量は特にありません
※「日本人の食事摂取基準(2005年版)」による
※成人=18~49歳
ご参考:2003年 国民健康・栄養調査による摂取量(20~59歳平均)
男性:266μg 女性:262μg
我が国におけるビタミンK栄養摂取状況
平成22年の国民健康・栄養調査では男性で平均231μg/日、女性で平均223μg/日摂取しています。男女とも目安量を充たしています 。
ビタミンKの過剰症と欠乏症
ビタミンKは腸内細菌によってもつくられますし、いろいろな緑黄色野菜に多く含まれるため、通常の場合は不足する心配はほとんどありません。ただし、抗生剤を長期間飲み続けている人では、体内の腸内細菌からの供給が不十分になるため不足する場合があります。油溶性ビタミンのひとつですが、通常の食生活では過剰症の報告はされていません。
ビタミンKには、過剰症状と欠乏症があります。
項 目 | 具体的な症状 |
過剰症 | 血液凝固抑制剤のワーファリンを使用している方は禁忌となります。それ以外の過剰による毒性はありません。 |
欠乏症 | 血液が固まりにくくなるため、出血が止まりにくくなります。歯ぐきから出血しやすくなることもあります。また、骨がもろくなって骨粗しょう症を引きおこすこともあります。 |
ビタミンKが多く含まれている食品
納豆に非常に多く、1パック(40g)には348μgも含まれています。その他には、こまつ菜やほうれん草などの緑黄色野菜にも多く含まれています。 なお、血液の抗凝固剤(固まらないようにする薬)を飲んでいる人では、納豆を避けるように指導されますが、これは納豆に豊富なビタミンKが薬の効きを悪くしてしまうからです。
含有量(可食部100g中) | 常用量(目安量) | ||
---|---|---|---|
納豆 | 600 | 40g(1パック) | 240 |
がんも | 43 | 70g(1個) | 30 |
モロヘイヤ(生) | 640 | 60g(おひたし1食) | 384 |
ほうれん草(生) | 270 | 80g(おひたし1食) | 216 |
かぶ葉(生) | 340 | 70g(1/3束) | 238 |
とり皮 もも(生) | 120 | 50g(1枚) | 60 |
(参考) ビタミンKが多く含まれる食品
(参照) ビタミンKの吸収を促進阻害する因子
ビタミンKを含む食品調理・加工をする際の注意点
食品中に存在するビタミンKは2種類あります。緑黄色野菜に多く含まれる、植物由来のフィロキノン(K1)と、納豆やチーズなどに多く含まれる、微生物由来のメナキノン(K2)です。一般的には、体内の腸内細菌によっても作られているので、普通の食事をしていれば、あまり摂取不足を心配する必要はないでしょう。ただ、腸内細菌の活動が未熟な乳児や、抗生物質の摂取によって働きが弱まっている人は、ビタミンKが不足する恐れがあります。
ビタミンKの歴史
1929年ダム(デンマーク)は、脂肪を含まない餌で育てたニワトリ雛が、皮下出血を起こしやすく血液が固まりにくい事を発見しました。この症状は色々な栄養素を与えても治らない事から、他の因子が関係していると考え、1934年に、出血予防因子が植物の脂質に含まれている事を発見しました。その血液凝固(ドイツ語で“koagulation”)作用に因んで、ビタミンKと命名されました。
ビタミンKに関する情報
ビタミンKに関する詳しい情報 ビタミンKの栄養所要量ビタミンKの吸収を促進阻害する因子
ビタミンKが多く含まれる食品
ビタミンK過剰症
ビタミンK欠乏症