ビオチン過剰症と欠乏症の栄養と健康
ビオチンは以前はビタミンHやビタミンB群とも呼ばれていましたが、その働きが解明されるに従いヒトの体内でつくられることが判り、ビタミンから外されている国もあります。もともとビオチンは皮膚に生じる炎症を防止する因子として発見されたもので、細胞の成長を助け、皮膚や爪、毛髪を健康に保ち、筋肉痛を和らげる効果があり、アトピー性皮膚炎・花粉症にも効果がると期待される、皮膚との関係が非常に深いビタミンです。ビオチン過剰症と体内代謝での働き
ビオチンは腸内細菌がつくる
ビオチンはタンパク質と結合している状態で含まれているため、そのままでは吸収されませんが、酵素ビオチニダーゼによってタンパク質から分離され(遊離型ビオチン)吸収されます。つまり、ビオチンは腸内細菌によってつくられるビタミンです。このため、便秘などで腸内環境に問題があると不足・欠乏を招くこともあります。
ビオチンはカルボキシラーゼの補酵素
カルボキシラーゼは、糖新生注1・アミノ酸代謝・脂肪酸の合成に関わる酵素です。ビオチンはカルボキシラーゼを助ける補酵素として働き、糖質・脂質・タンパク質の代謝を助けてエネルギー生産します。
ビオチンによる.糖新生
糖新生とは、主として肝臓が糖以外の物質から糖を合成することをいいます。一部のサイトで、グリコーゲンを分解してグルコースにすることを糖新生と説明しているものがありますが、間違いです。ブドウ糖のエネルギー生産の過程で発生する乳酸は、肝臓に運ばれ、まずピルビン酸へと変えられ、さらにオキザロ酢酸へと変化して、再びブドウ糖へと再合成されます。これを糖新生(糖のリサイクル)といいますが、ビオチンはピルビン酸からオキザロ酢酸へと変換される際に働く酵素の補酵素としてその機能を補います。
糖のリサイクル(糖新生)ができないと筋肉痛や疲労感
エネルギー生産の過程で燃えカスとして必ず発生する乳酸は、肝臓に運ばれ再びブドウ糖へ再合成されます。これを糖のリサイクル(糖新生)と言いますが、ビオチンが不足するとリサイクルが上手く進まず、筋肉痛や疲労感などの症状の原因になります。
ビオチンはタンパク質の合成を促す
ビオチンは亜鉛と協働して核酸(DNAやRNA)に補酵素として働きかけ、タンパク質の合成を促しています。皮膚(爪や髪の毛)の規則正しい細胞分裂に欠かせない栄養素となっています。また、ビオチンはアミノ酸の代謝に関わる酵素の補酵素として働きます。アミノ酸はタンパク質の材料であるため、ビオチンが不足してアミノ酸代謝が滞ると、皮膚や毛髪などにも影響がでて、肌荒れや脱毛や白髪といった症状になることがあります。
ビオチンはヒスタミンの元となるヒスチジンを排出する
アレルギー物質(アレルゲン)が体内に入るとヒスタミンなどの化学物質が放出され、このヒスタミンが皮膚の炎症を引き起こしてしまいます。ビオチンはこのヒスタミンのもとともいえるヒスチジンを体外へ排出する作用があり、アトピー性皮膚炎の原因を減らす働きがあるとされ、アトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の炎症に補助療法としてビオチンが用いられています。
調製粉乳を飲む乳児にアトピー性皮膚炎
わが国ではビオチンが食品添加物として認可されていないため、調製粉乳(粉ミルクのこと)、とくに治療用特殊粉ミルクを飲んでいる乳児にアトピー性皮膚炎が見られ、ビオチンの不足が指摘されていています。ビオチンが不足すると、たんぱく質の合成や免疫機能などが低下するため皮膚形成がそこなわれ、その結果アトピー性皮膚炎が発症するのではいわれています。乳児にビオチンを投与したところ、症状が改善する場合があるといった報告があるようです。
ビオチン過剰症の症状
ビオチンは水溶性ビタミンです。過剰に摂取しても吸収されないためビタミンB12の過剰摂取による障害は、ほとんどありません 。しかし、妊娠中に多量のビオチンを投与すると、哺乳動物では胎仔の吸収 (妊娠初期の胚死亡) や胎盤、卵巣の委縮がおこるとの報告もありますビオチン過剰症と栄養所要量
各年齢別のビオチンの食事摂取基準 (日本人の食事摂取基準2010年版) は以下の通りです 。現在、国民健康・栄養調査の調査項目には入っておりませんが、食事から平均45.1μg/日摂取しているという報告があります 。ビオチンの栄養所要量は以下の通りです
栄養推奨量 | |
成人男性 | 45μg |
成人女性 | 45μg |
妊婦 | +2μg |
授乳婦 | +4μg |
(参考) ビオチンの栄養所要量
※上限量は定められていません
※「日本人の食事摂取基準(2005年版)」による
※成人=18~49歳
ビオチン過剰症に関する情報
ビオチンに関する詳しい情報ビオチンの栄養所要量
ビオチンの吸収を促進阻害する因子
ビオチンが多く含まれている食品
ビオチンの過剰症
ビオチンの欠乏症