ビタミンB1の栄養
ビタミンB1 (thiamin:チアミン) は、1910年に鈴木梅太郎によって米糠から発見された水溶性のビタミンです。天然にはチアミン1リン酸 (TMP) 、チアミン2リン酸 (TPPまたはTDP) 、チアミン3リン酸 (TTP) の3種類のリン酸エステルが存在します。これら3種類のビタミンB1のリン酸エステル体は、摂取するとビタミンB1となって吸収され、生体内で再びリン酸化されます。体内では主にチアミン2リン酸の形で存在し、糖質および分岐鎖アミノ酸代謝における酵素 (トランスケトラーゼ、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素) の補酵素として働きます。
ビタミンB1欠乏症と栄養
ビタミンB1の欠乏症は、食事からの摂取が不足した時や、糖質の多い食品やアルコールを多量に摂取した時に起こります 。
ビタミンB1欠乏症の症状
糖質の代謝に関与するビタミンB1が不足すると、糖質を主なエネルギー源としている神経や脳に影響が現れます。精白米を常食している東洋人では脚気、アルコールを多飲する西洋人ではウェルニッケ脳症などが見られます。
ビタミンB1欠乏症による脚気
脚気は、代表的なビタミンB1欠乏症です。ビタミンB1の不足によって、糖質(ご飯、めん類、パンなどの炭水化物)を、エネルギーに変えることができずにおこる病気です。いくら主食のご飯やめん類を、たくさん食べても、それを身体に必要なエネルギーに変えることができなければ、健康を維持することはできません。脚気の症状には、疲労感、息切れ、動悸、むくみ、食欲不振、手足のしびれなどの欠乏症があります。その症状からだけでは、脚気だと気付かないことも多いようです。脚気は、軽症であれば、生命に関わることはありませんが、重症になると、心臓が肥大して、心不全をおこします。最近は、冷凍食品やインスタント食品などの、糖質を多く含む食品から、栄養を摂取する人が多くなっています。この糖質を、エネルギーに変えるときに必要になるのが、ビタミンB1ですから、症状に心あたりのある人は、不足しないように気をつけたいものです。
ビタミンB1欠乏症によるウェルニッケ脳症
ウェルニッケ脳症とは、歩行障害、眼球の運動まひ、意識障害、けいれんなどの症状が特徴で、悪化すると昏睡状態から死にいたります。脚気の場合は、症状が進むと心不全になるのですが、ウェルニッケ脳症の場合は、中枢神経に関わる症状が主になっています。ビタミンB1不足が原因のウェルニッケ脳症は、アルコールを飲みすぎる人が、かかりやすいといわれています。また、慢性のアルコール依存症と、ウェルニッケ脳症を併発すると、
・ 物忘れがはげしい(記憶障害)
・ 架空の作り話(作話)
・ 周囲の状況や自分がいる場所、日付などがわからない
(見当識 けんとうしき)
などの症状がでてくる「コルサコフ病」という病気に、なる可能性が高くなってきます。コルサコフ病になったときは、禁酒やビタミンB1による治療で、ある程度回復しますが、完治するのはなかなか難しいといわれています。
ビタミンB1欠乏症と栄養所要量
通常の食生活においてとり過ぎによる過剰症の心配はほとんどありません。ただし、サプリメントなどからの大量摂取によって頭痛、いらだちなどや、かゆみなどの皮ふ症状が報告されています。その利用目的、方法、摂取量に十分に注意して適切なご利用をこころがけてください。平成21年の国民健康・栄養調査では、通常の食品から男性で平均0.90 mg/日、女性で平均0.78 mg/日摂取しています。また、強化食品・補助食品から男性で平均0.66 mg/日、女性で平均0.77 mg/日摂取しています 。
ビタミンB1の栄養所要量は以下の通りです
ビタミンB1の栄養推奨量 | |
成人男性 | 1.4mg |
成人女性 | 1.1mg |
栄養機能性食品として | (下限値) 0.3mg |
(上限値) 25.0mg |
※エネルギー摂取量が多いほど要求量が増大するので、糖質含量の高い食品の摂取、多量のアルコール摂取、輸液による栄養補給を受けている場合などにはビタミンB1の補給が特に必要となります。
ビタミンB1欠乏症、過剰症に関する情報
ビタミンB1に関する詳しい情報ビタミンB1の栄養所要量
ビタミンB1の吸収を促進阻害する因子
ビタミンB1が多く含まれている食品
ビタミンB1過剰症
ビタミンB1欠乏症